■INDIGO

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「会社で急遽一人、休職することになったんだ」 夕食の洗い物をしてくれていた昂くんが、キッチンから声を掛けた。 ダイニングテーブルを拭いていた私は顔を上げ、「急遽っていつ?」と詳細を促した。 「今週来週はもう時短で引き継ぎ。有給とかで調整して今月一杯かな」 「本当に急ね。どうしたの?」 「鬱だね。ここ数か月、ちょっと不調が続いていて遂にって感じ」 「昂くんに影響ある人?」 「すっごくある。俺の仕事の営業担当だから、多分忙しくなる」 転職から7年目、34歳。メーカーで技術職の彼は、普段20時には家に帰ってきてるような人。 そこまで遅くなるようなこともなかったけれど、今週に入ってから遅くなる日が続いている。 「その人の分のお仕事も回ってくるの?」 「うん。他の営業が行くより俺が説明した方が早いものが多くてね。量もそうだし出張も増える。取り敢えず明日福岡に泊まることになった」 「明日……」 水の音が止まった。カウンター越しに視線がかち合って、私は驚きと寂しさを重ね合わせた顔を作る。 「そんな顔するなって。何人かで分担するし、負荷が掛かり過ぎないように調整もするから」 「でも、暫くは続くんじゃないの?」 「まあ……取り敢えず年内は厳しいかも」 「泊まりも増えて?」 「恐らくね」 溜息を吐いた彼の顔は少し疲れ気味で、ここ数日の心労を物語る。 真面目な人だから、きっと必要以上に抱え込んでしまう。大丈夫だろうか。 布巾をすすぎに昂くんの隣に立った。 二人並んでも十分な広さの洗い場。半身をくっ付けて出した水の下に手を翳す。 「無理しないでって言ったところで多少はするでしょうから」 「うん、まあ、多少は」 「引き摺られないようにだけ気を付けてね?」 じゃかじゃかと擦り合わせて布の汚れを落とし、水を止めた。
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