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「そうだね、そこは注意する」
「遅くなっても私はご飯作って待ってるよ」
安心させるようににこりと笑うと、彼も微笑んで顔を近付ける。
二人して水に濡れた手。滴り落ちるそれにはた、と同時に気付いて、抱き寄せることもなく唇だけ触れ合った。
「でもあんまり遅い時は連絡するから。待ってなくてもいいよ」
言いながら私の手から布巾を取り、絞ってくれる。
「……ありがとう」
「明日の準備するね。朝はオフィス行って夕方のフライトで向かう予定」
「わかった」
私が差し出したタオルで手を拭った彼は私から離れ、隣の部屋のウォークインクローゼットへ向かった。
キッチンに残った私も手を拭き、しっかりと絞られた布巾を拡げてタオル掛けに吊るす。
なんて好都合。前回ヴィブジョーに行ったのは先週。ていうか10日程前。
そろそろまた、効果が薄れて来てしまったと思っていた所だったの。
明日いないなら行っちゃおうかな。
リビングに向かってスマホを手にした。待ち受けに設定してる結婚式の日の私達がそこに表示される。
自分史上最高に楽しかった日から1年と少し。あの時からしてみれば、たった1年でこんなことをしてるなんて誰が想像していただろうか。
普段使わないブラウザ、履歴の残らない秘密モードでヴィブジョーのHPを開き掲示板を覗いた。
男女問わず来店予告をしていて、意外に賑わいを見せる客と店との交流。
女性が書き込めば、釣られてくる男性もいるんだろうな。691(ロックワン)は割とノリのいい所だったから客層もバラつきがあったけど、女性は予想通り少なめだった。でも彼と一緒に行った場所に出入りはしたくない。
ヴィブジョーは……。帰る頃には男女共に人が増えてたし、掲示板の動きもそこそこ活発。
ひと通りの確認を済ませ、秘密モードのウインドウを閉じてアプリ履歴からも削除する。
まあ、行けば済む話。
嫌ならお喋りだけで帰ったって全然問題ない。
男女比や客層、好みに相性。その日その時どんな人と出逢うかも、全てはその場のハプニング。
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