■INDIGO

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―――翌日の夜。 ヴィブジョーのドアの前、立ち止まってインターホンを押す。 サーモンピンクのトップス、オフホワイトの膝丈スカートと順に下りて、ぼんやり見つめるグレーのバレエパンプス。 「お待ち下さーい」 ニコさんの声がして顔を上げた少し後、非日常への扉が開いた。 「こんばんは、ミオさん」 「こんばんは」 会員証を見せて靴を脱ぐ。先週は上着も着なくて済んだのに一気に秋が舞い降りて、防寒具が色々必要になってきた。 人肌恋しくなる季節。中扉が開いて奥へ進む。 ひと巻きした髪に指を通して赤い石のピアスに触れる。『ミオ』になるためのちょっとした儀式。 「嬉しいです。また来て頂けて」 「はい、前回楽しかったから」 ロッカーにジャケット諸共荷物を詰め込んで、スマホを見る。特に何も届いていない。 手前に置いて、鍵を掛けた。 「そうだ、ミオさんの名前で掲示板書き込んでもいいですか?」 「ああ、来店予告とかしてるあれ?いいですけど……」 安請け合いしそうになってはた、と思い留まる。 昂くんが私のハンドルネームを知っている訳ではないけれど、何かのきっかけで言い逃れ出来ない証拠になっても困るなぁ。 スワップ出来そうなとこ探してた時に、ここの存在は知ったはずだから。 「伏せ字とかでも構いませんか?」 「もちろん。カタカナのミに丸でミ○とかにします?」 意地悪そうに言いながらニコさんは銀色の眼鏡の端と一緒に片側の口角を上げた。 わかってて言ってる。私も軽く咎める口調で「伏せてないからだーめ」と微笑んで告げた。 カウンターの傍ら、私に目線を寄越す男性が一人。その脇に開いたノートPCにこのお店の掲示板が映る。 あれの中の一部は、彼らがこうやって代理で書いたりもしているのね。 男性の隣のスツールを自分で引いて掛け、カウンターの上で手を組んだ。 「わかった。なら、Mとだけ」 「それならOK」 「どうも。後で書いておきますね」 カウンターの中の彼に目配せして瞬きで頷いて、おしぼりを受け取る。
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