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好きな人が自分以外の人を好きになったら、私はどうするんだろう?
すでに数学の授業が始まっていたけれど、気持ちの切り替えが上手くいかなかった。
私は後ろの席に意識を集中した。
新村君・・・
美香は田中先輩の事で頭が一杯なので、美香にも話してはいないけれど、私は新村君が好きだ。
美香のように一目ぼれという訳ではなかった。ぱっと見で人目を引くタイプではない。見た目でいえば、わりと地味な方だ。
何となく、少しずつ、物静かで穏やかな空気感にひかれていった。
挨拶以外、言葉を交わしたことはないけれど、後ろの席に新村君がいる、そう思うだけで毎日ドキドキしていた。
もし新村君が誰かと付き合ったら?私は頭を大きく左右に振った。考えても仕方がない。
先生が板書をしているのを横目に、窓の外を見た。
窓際の席だからといって授業中に窓の外を見るのは、新村君に、不真面目な人間と思われそうで普段はしないようにしているのだが、今日は外の景色を見て気分転換がしたかった。
誰もいない校庭の銀杏の木から、風に吹かれて葉がヒラヒラと舞い落ちている。
校舎から誰か人が出てきた。
早退でもするのかな?正門の方へ向かって歩いていく。風に舞う銀杏の葉を目で追って、その人物が横を向いた。
え?あれって田中先輩。美香の大好きな田中先輩だ!
具合でも悪くて早退するのかな?後で美香に教えてあげないと。あ、でも、今は田中先輩の話は聞きたくないかな?
田中先輩が誰かと付き合うなんて、美香が可哀想。あんなに大好きだったのに。
もし私が美香だったら、黙って諦めるんだろうか。一度も話をしたことがないから、諦めないといけないんだろうか?
美香は休み時間のたびに先輩を見に行くらい好きだったのに、大好きだったのに、ただ諦めないといけないんだろうか?
嫌だ、そんなの嫌だ!
もし私が美香だったら、田中先輩を誰にも渡したくない。絶対に、絶対に誰にも渡さない!
その時、田中先輩の足元の地面がウネウネと動き出した。そしてそのうねりは大きくなり、田中先輩を飲みこんでしまった。
一体何が起こったのか、単に私の見間違いだったのか、私は田中先輩が飲みこまれた場所から目を離すことが出来なかった。
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