その1

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「山岸、新村、外に何か面白い物でもあるのか?」  いきなり大声で注意され、私は慌てて前を見た。  先生が、怒った顔でこちらを見ている。 「すっすみませんっ」  私は思い切り頭を下げた。 「すみません」 後ろから新村君の声が聞こえた。 「まったく」  そう言うと先生は授業を続けた。  その後、私はまっすぐ前を向いていたけれど、授業の内容はこれっぽっちも頭の中に入ってこなかった。  田中先輩はどうなったのか?あのウネウネは何だったのか?私の見間違いだったのか?新村君も田中先輩が飲みこまれるところを見ていたのではないか?  頭の中は、マーブルアイスをかき混ぜたようにグチャグチャになっていた。  ただ、頭のどこかで、あの土がうねる感じを以前にも見たことがある気がしていた。  授業が終わり、皆が帰り支度を始めるなか、私は先ほどの出来事を新村君に確認しようかどうか、決めかねていた。  いや、それ以前に、どう話しかければいいのか分からなかった。 「山岸さん」  ふいに新村君の声がした。  私は慌てて後ろを振り返った。 「あのっ、えっと、その・・・何?」  私には、そう答えるのが精一杯だった。 「さっきさ、校庭を人が歩いていたよね?」  新村君は確認するように言った。 「あ、あの、うん。歩いていたよ」 「その人、いきなり消えたよね?」  やっぱり、新村君も見ていたんだ。田中先輩があのうねりに飲み込まれるところを!  不謹慎ながら、私は嬉しかった。  新村君も私と同じ光景を見ていたのだと、2人は同じ光景を見ていたのだと、そう思うと私は嬉しかった。  私は、勇気を出して言ってみた。 「地面が大きくうねって、飲みこんだよね」  私は、新村君が肯定してくれると思い込んでいた。「ああ、飲みこまれたよ」と答えてくれると信じていた。
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