天使の分け前

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 茹だるように暑い夏の日。夏らしいと気分が上がる蝉の鳴き声もこう大合唱ともなると、ジージー五月蠅い雑音に響き、憂鬱な気持ちを晴らせることはない。  休み時間ともなれば、陽也の周囲からさっと人は居なくなる。この学園は正真正銘のお坊ちゃん学校で陽也のような貧しい母子家庭の者は珍しい。身に付けている時計だの万年筆だのの類いや家柄でランク付けされる此処に於て陽也は、最下層どころか最下位に位置するだろう。成績は上位1位2位を争うレベルであったが、バッググラウンドを同時に兼ね備えなければあまり此処では意味を成さないらしい。元より自己評価が低い陽也は更に自信を失い、顔を見せないように伸ばした前髪は彼を陰鬱に見せていた。  そんな陽也が先程の授業のテキストを机の中に仕舞っていると、廊下が俄に騒がしくなった。視線を遣らずとも誰がいるなんてこの学園のものは誰でもわかりきっている。陽也が視線を上げるとそこにはやはり、予想どおり美しすぎる男がいた。  蓮城綾人は英国貴族の血が入っているらしく、日本人でありながら瞳は淡い鳶色で色素の薄い肌の色をしていた。背まで伸ばされた髪も瞳と同じ淡い色を持ち、さらさらと揺れると華のような何とも言えない甘い香りがする。  すらりと高い身長を持ちモデルのような体躯。このルックスに高貴な家柄でもって、さぞかしモテるのだろうと思いきや、毎朝学園に付帯している礼拝堂で熱心に毎朝祈りを捧げる姿を汚してはならないと、その神々しいまでに清らかな姿と精神を崇拝され、彼に対する不可侵条約まである始末だ。男が何事かを言うと辺りは花が咲いたように明るくなった。遠くから見つめているだけでも余りの美しさに陽也はほぅ、と溜め息を吐いた。 (今日も、綺麗だな…………)  陽也が思わずうっとりと見蕩れていると、つ……と淡い鳶色の瞳と陽也の瞳がほんの一瞬、絡んだ。 (あ………) 陽也がそう思ったとき 「本当に清廉潔白な人っているんだな……」 「あぁ、背がすらりと高くてあの清らかな精神。まるで大天使様だ」 「アイツさえ居なければ成績だってぶっちぎりの1位だしな」 「まぁアイツが蓮城さんと1位2位を争ったところで、アイツはくらーい貧乏、蓮城さんとは比べものにならないだろ?」  聞こえよがしな雑音を窓の外の蝉の鳴き声に無理矢理重ねてしまうと、陽也はそっと五月蠅い教室を後にした。
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