今日の私はツイていない。

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 仕事でミスをした。お弁当を忘れて無駄な出費が発生した。三十路になった。しかも残業もあった。 「はぁー」  白い息を吐きながら外に出た時には真っ暗になっていて雪がチラついていた。 「これで電車止まったら泣ける」  呟いて一歩外に出ると 「北田先ぱーい」  と、後ろから声を掛けられた。 「ん?」  不機嫌に振り返ると二つ下の男の後輩が小走りに走って私の隣に来た。 「駅まで一緒に行きましょう」 「浜田君がいいならね」  軽く答えて歩き出した。  浜田君は、仕事が出来、誰にでも優しくて人気のある男子だった。もちろん私も少し気になっていた。 「冷えるね」  私が手に息を吹きかける。 「先輩、こんな寒い時期に生まれたんですね」 「あー、まぁー、そーねー」   さすがに誕生日の話はして欲しくなくて軽く流すと 「ささやかなんですけど」  浜田君は私の方にラッピングをしたノートより小さい紙包みを差し出した。 「え? 私に?」  流石に悪い気はしなかったので受け取り、鞄にしまおうとすると 「確認してもらってもいいですか?」  申し訳なさそうに浜田君が言った。 「かぶってしまっていたら申し訳ないので」  そんなふうに言ったので、確かに一理あるのかと思い、テープをはがし、丁寧に紙包みをはずした。  1冊の小説としおりが入っていた。  小説は、好きな作家さんの新作で欲しかったけど買いそびれていたものだった。  けど、しおりは四角いのにルーペになっていた。 「浜田君、さすがに私、老眼じゃないんだけど…」  そう言って、しおりを上に上げ空を見た。  真っ暗だと思ったのに雪がチラチラとしおりの上に舞い落ちた。  かすかに結晶の形が見える。  目を凝らして見ていると 「雪の結晶って一つ一つ違っていて、みんな形が違うそうです」  浜田君が教えてくれた。 「そうなの?」  じっくり結晶一つ一つを見ていると 「だから北田先輩は北田先輩でいいんです」  そう言って浜田君は私の手から本を取るとひっくり返して裏表紙にした。 「ん?」  そっちを見るとしおりも私の手から抜き取った。
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