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蒼華が風呂に向かうあいだに、真桜は蒼桜を寝かしつける。蒼桜は少しぐずっていたが、やがて寝息を立て始める。真桜は、蒼桜を揺り籠の中に寝かせた。傍に座り、寝顔を眺めた。赤ん坊というのは、なにをしていても可愛らしい。
髪を拭きながら、蒼華が現れる。彼は隣にやってきて、蒼桜を覗きこむ。
「寝てるのか?」
「ああ」
「かわいいなあ」
蒼華は甘さを含んだ声で言う。わしわしと頭を拭き、布を長椅子に放った。うっとりと蒼桜を見ている。
「きちんと拭かないと、風邪をひく」
真桜は布を拾い上げ、蒼華の頭にかぶせた。ちゃんと拭かないから、熊だのなんだの言われるボサボサの頭になるのだ。
ごしごし拭いていたら、腕を掴まれる。
「面倒見がいいな。春海、とかいうのにも、同じことしてやったのかい」
蒼華がそんなことを言うのは珍しい。これは嫉妬なのか。少し嬉しい、と思ってしまう。
「……春海は、私に頭を拭かせたりはしない」
「なんで」
「彼は、本来なら黒家一の陽力を持つ。番いになるまえ、何度か彼に治療を受けたこともあった」
悪い男ではなかったのだ。しかし、と真桜はつぶやく。
「病で、片手に麻痺が残った。それが利き手で……まともに精霊を扱えなくなってしまったんだ」
だから春海は、医師としても精霊使いとしても、働けなくなった。
「酒浸りになり、それで……万が一にも本家を乗っ取れない春海は、私の番いとして白羽の矢を立てられた」
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