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寝台から起き上がり、揺りかごで眠る蒼桜の様子を見に行く。蒼華はむずがることなく、穏やかな寝顔を見せている。真桜はしばらく我が子を見つめたのち、窓辺へ向かった。窓の外には大きな満月が見えている。窓を開いたら、ひらり、と桜の花びらが舞い込んできた。美しい情景だ。真桜は無意識に、満月に手を伸ばす。背後から、その手を掴まれる。振り向くと、蒼華が立っていた。彼は真桜の身体を抱き寄せる。
「どうした?」
尋ねたら、かすれた声で言う。
「おまえは天女さまみたいだから、月に帰っちまうかと思った」
「私は男だ。それに……空など飛べない」
蒼華の身体はかすかに震えていた。怖かった。おまえと会えない間。おまえに会いたかった。初めて泣き言を聞いた気がした。強い男だと思っていたのに。
「ずっとそばにいてくれ、マオ」
「ああ……」
真桜は、そっと蒼桜の手を握りしめた。
真桜と蒼華を繋いでいるのは、赤い糸ではない。番いのように、互いをつなぐ強いものはない。あるのはただ、蒼くしなやかな、一本の糸だけだ。
「幸せに、したい」
蒼桜を、蒼華を。結びつけられた糸を大事にしたい。蒼桜がぐずる声を聞いて、真桜は揺りかごに近寄っていく。ちいさな我が子の背を、優しくなでる。
「大きくなれ、蒼桜」
そしてこの子が繋ぐだろう。未来へと繋ぐ糸を。
陰陽のアオイイト/終わり
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