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夜桜
初めて春海と出会ったとき、真桜はその美しさに息を飲んだ。彼は全身から、磨き抜かれた刃のような光を放っていた。だが彼の美しさには、生来の傲慢さ、そしてなんとも言えない暗さが滲んでいた。彼はアルファ──男を孕ませることができる性だった。
「俺は男なんかとヤリたくねえ」
初めての夜、春海はそう言った。たしかに彼なら女性に不自由しないだろう。真桜はそう思いながら、ぎこちなく頷いた。
「ああ」
「嫌々やるんだから、おまえは俺の言うとおりにしろ」
萎えるから、絶対声を出すな。そう言われ、真桜は固い声でこう返した。
「……そんなに嫌なら、他のものに役割を代わらせるか?」
「は? 他のものって誰だよ」
彼は腹立たしげに尋ねてきた。
「蘭明が嫌だから俺に話を持ってきたんだろうが、おまえの親父は」
そうだ──黒家のアルファは、黒蘭明と玄春海しかいない。おかしな血を黒家に入れるわけにはいかない。保守的な父は常々そう唱えていた。
「蘭明に力を持たれたら困るんだろうよ。あいつは隆生の弟子だからな」
黒隆生──十年前黒家を追われた医師の名だ。養子にも関わらず、陽性妊娠について誰もなし得なかった研究を完成させた。追放者の弟子を当主には据えられない──一応名目上はそうなっている。
「まあ、あのおっさんは、単純に自分の言うことをきくお人形がほしいだけだろうがな」
春海はそう言って嗤った。背筋が冷えるような笑いだった。真桜は手をついて、頭を下げた。
「よろしく、お願いします」
真桜は春海とは反対で、孕む性だった。代わりに女を孕ませることができない。
春海は手酷く真桜を抱いた。声を出すと髪を強く掴まれた。真桜にとって、性行為自体が初めての経験だった。
──初めてのくせに、乳首噛まれていきやがって。
乱暴な愛撫に感じてしまったことを揶揄され、羞恥に震えた。春海はあらゆる言葉と行為で真桜を貶めた。
男のくせに、男に抱かれて感じる自分が、女との子孫を残せない自分が悪いのだ。いつしか、そう思うようになった。
いくら手ひどくされても、快感を覚えてしまうから、春海と交わるのが怖かった。いつからか、夜が来るのが怖くなったのだ。
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