街桜

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「冗談じゃないですよ。ああいう男は、痛い目を見なければわからないんだ」  月桃は腕組みをして息巻く。彼は、まっすぐな少年だ。 「おまえがいるから、随分気が楽になる」  そう言ったら、月桃が瞳を揺らした。 「俺には何も出来ません。なんの力もない。黒家でもないし」  月桃は、真桜の乳兄弟だ。生まれたときから、きょうだいのように育ってきた。真桜はふ、と笑い、 「そばにいてくれるだけで、十分だ」  彼の頭を撫でた。月桃が黒家ではなくてよかった、と思う。名家の重荷に縛られていないからこそ、月桃は真桜の助けになる。では蒼華は? 緋家の直系である彼が自由に見えるのはなぜだろう。クマのような男をぼんやり思い浮かべていたら、使用人がやってきた。 「真桜さま、旦那さまがお呼びです」 「ああ、すぐに行く」 「真桜さま、私もお供いたします」  月桃が口を開いた。何かを察したのだろう。彼は賢い。 「いや、大丈夫だ。行ってくる」  真桜はそう言って、父の居室へと歩き出した。 「失礼いたします」     
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