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闇に溶けるようにして、陰陽山がそびえている。陰陽国の国名と同じ名前を冠するそれは、神の山と呼ばれていた。上から見下ろすと、山の中腹に大きな屋敷が五つ点在しているのが見える。点在する屋敷の中の一つ、黒い屋根の屋敷から、人影が出てくるのが見えた。その人物は上衣をかぶり、足早に歩いて行く。
きっと、月桃に見つかったら叱られる。上衣を被った人物──黒真桜はそう思った。
真桜さま、あなたは黒家の跡取りなのですよ。何かあったらどうするのです。まだ前髪の若々しいお付きはいつも、そう言って真桜を諌める。夜更けに抜け出すのはやめてください。どうしても行きたいのなら、私を連れて行ってください。
月桃は日中立ち働いて疲れている。真桜の我儘に付き合わせるのは忍びない。それに、一人になりたかった。
真桜が生まれた黒家は、五大家と呼ばれる精霊使いの家格だ。訳あって今は除籍されているが、家としての力は衰えていない。なにせ、医術を扱えるのだから。
五大家に属するものは、みな「精霊」と呼ばれるものを操ることができる。それがゆえに、神の山である陰陽山の中腹に、特別に住むことを許されているのだ。
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