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「いいよ。分かった」  その重みも分からず、俺はとんでもなく軽快な返事を返した。   それから、薫は俺の前では男だった。  見た目も、着ている制服も女の子だが、俺の前でだけは「僕」という一人称に変え、喋りも心なしか男よりのものになった。  俺と薫だけのルール。男でいる時の薫は、見ていても楽しそうだった。こいつは本当に、男でいたいんだなと思った。  年月を重ねていくほどに、その日常が当たり前になっていくにつれ、俺は薫の心の痛みを考えるようになった。  皆の前では普通の女の子として振舞う薫を見て、心が軋んだ。  自分だけは、薫の楽な居場所でいてやらないと。  そう思って過ごした三年間だった。  はたから見れば、男女二人で一緒に帰る姿なんて囃し立てられる格好の的だった。だがそれも最初だけで、幼馴染というワードを貫き通す事で周りの興味も失われていった。  ――やめてくれ。  囃し立てられた頃、何度も辛い気持ちになった。薫はそうじゃないんだと言ってやりたい気持ちになった。  だが、俺も薫も鬱屈した感情を言葉にすることはお互い自然としなかった。なんてことない、くだらない冗談ばかり言って笑い合った。笑っていたかった。笑わせていたかった。     
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