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「……あんたら、この状況でふざけるようなら隕石落ちる前に私が殺すわよ」
目がマジだった。本気の台詞である。
菜穂子は両肩をすくめつつ、
「大丈夫だって、もう終わったから」
「俺も今のでちゃんとやったぞ」
「早っ!」
驚きに目を見開くナターシャ。
その双眸で見えるのは大量の梅干しではなく、黒光りする金属鉱の山。
「作戦参謀官! こちらへ来てください!」
モニターの前に陣取る研究員の声が飛んだ。
足がもつれそうになる勢いで駆け寄るナターシャ。
「おお……」
隕石内部の温度を示すサーモグラフィー。それが明らかに変化していた。
青色から赤色に。その変化は一部だけに過ぎないが、それに伴って確かに重心軸が傾いている。
「傾斜角は!」
「推定で2.8度です!」
「すぐに軌道予測の計算をやり直して!」
ナターシャの命令に研究員の指先がキーボードを滑る。画面には点線で予測軌道が表示され--
『collision avoidance』
その文字が画面に表示された瞬間、つんざくような歓声が響き渡る。
誰構わず隣にいる者と抱き合い、涙を流し、あるいは手を組んで祈りを捧げる。
「ねえ、直哉。これ何て読むの?」
「俺に聞くな」
今ひとつ感動を共有できてない人物がふたり。
そろってナターシャへと視線を向ける。
「衝突……回避よ」
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