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「ええ御守りやんか。祈年祭で売っとってもおかしくないくらいや。ありがとうな」
そう言って田沼先輩が笑った。無人精米機から出て来たばかりの上白米のような、輝くように白い歯を見せる。
「そんな…喜んでもらえて嬉しいです。受験、絶対合格して下さいね」
私は胸の前で両手を握った。先輩もそれに合わせて、ガッツポーズをしてくれる。それを見て、喉に餅が詰まったような気分になった。
手をそっと胸に当てる。先輩の合格を願う気持ちは嘘じゃない。だけど、大学が決まれば先輩はこの村を出て行ってしまう。一番近くの大学ですら、ここからじゃ通うには遠すぎるからだ。そのことが堪らなく寂しい。
私にとって先輩は、退屈なこのクニの救世主だった。
あと何回会えるだろう。今日みたいに、毎日昼休みに教室に来れば、卒業まであと十数回は話せるかも知れない。
だけど私は先輩にとってただの地味な後輩で、先輩は学年でも部内でも高嶺の花だった。
釣り合わない。そんな私が先輩に会うには、何かしらの理由が必要だ。
誰がお供え物も持たずに山開きのお祭りに来るだろうか。今日は御守りがその“理由”だった。先輩の誕生日もバレンタインデーも過ぎてしまった。私にはもう、卒業式まで先輩に会いに来る口実が無くなってしまったのだ。
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