最終話

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 エレベーターを降りて走り寄って来るあどけない姿を、口角を上げて迎える。 「皆来ているぞ」 「ごめんなさい」 「ちがうよ、パパ。まながこれきるって、いったからなの」  短い脚でくるりと一回転して見せる愛(まな)を、溜息を吐いてから抱き上げる。それを微笑みながら見上げてくる沙也加は、母になって三年が経った。髪は肩に付く程度で、もう伸ばす予定はないらしいが私の好きな髪型だ。 「さや姉! まーな!」  先に行ったはずの匠が、綺麗に笑いながら廊下の先で手を振っている。その瞬間じたばたと暴れだす我が子を床に降ろすと、匠へと一目散に走っていく。隣でニヤニヤと笑っている沙也加の様子から、私は大人げない顔をしていたようだ。 「愛。今日は一段と可愛いね」  愛を抱き上げた匠は頬擦りしながら、愛のワンピースの乱れを直しつつにっこりと笑う。 「そうなの。ゆかりちゃんがくれたの」 「そっか。藤本さんが。それは着てきて正解だね。じゃあ、行こうか。みんな待ってるよ」  愛を抱いたまま前を歩く匠に続くと、隣から伸びてきた手に指を絡め取られる。最近はいつもこうだ。人目を盗んで甘えてくるこの行為の正体は、恐らく愛への少しの嫉妬。じんと熱くなる胸中を明かすことなく、その指を撫でてから握り返した。  部屋の中は家族が勢揃いしている。以前なら嫌悪感に包まれていたが、今はもう違う。小さなベッドを覗き込む尊敬する父親と、愛する妻の母親。その横で未だに瞳を潤ませているのは司。 「兄さん」 「お前も父親だな」  こくりと無言で頷く司の目には、強い決意の色が見える。視線をベッドに移せば、そこには化粧をしていなくとも美しく強くなった藤本の姿がある。もう藤本ではなく大谷になった今でも、ゆかりとは呼び辛いのだが。 「あーちゃん!」  色んな想いが交差する室内で、ただ純粋に喜んでいる声に優しい溜息が漏れる。思わずみんなの顔が綻んだ。
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