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「――カンナ?」
「ねえ、私はさ。耐えられないの。このまま誰の温もりも知らずに死ぬまで、檻を着て生きていくことが――」
檻を着ている。自由と引き換えに命の保証を自分に与える無菌衣をなじった表現。KAORIのデビューシングル“White Baby”で使われていた表現だ。
「ねえ、私と一緒に死んでくれる?」
彼女が僕を磔にして言った言葉。
それは、KAORIが捨てたもう一つの未来を僕らが背負うことを表していた。
僕は、カンナの顔を知らない。それは無菌衣に包まれて、摂食の際に口元が露出するだけだ。僕が知っているものは、澄んだ声とそれとともに鼻孔に届けられる、甘くて苦いタバコの匂い。あとはほとんど彼女の内面的な情報。ジャックダニエルのウイスキーが好きなこと。僕よりお酒に強いこと。
――でも僕はカンナの姿を知らない。
髪色も、髪の長さも、鼻の高さも、耳の形も、目の色も、肌の色も、肩幅も、腕の細さも、胸の膨らみも、おへその形も、お尻の丸みも、太ももの柔らかさも、膝の綺麗さ、脚のラインも、足の小ささも、爪の照りも。
知らない。知らない。
僕は知りたかった。
その代償の大きさを知ったかぶって、僕は彼女の願いを受け入れた。
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