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途中、コンビニに入った。
そこで牛乳を買った。
「初挑戦の牛乳でお腹を壊したらどうしよう」
「さあ?」
「下痢はかっこ悪いよ」
苦笑いしながら彼女は紙パックをしぼませた。そして、口中にそれが入った途端に目をまん丸にして飛び跳ねた。
「これ、すっごい美味しい! 偽物じゃない! 本物の味!」
はしゃぎすぎて、口元に白いおひげが生えている。
大げさな。そう思ったけれど、僕もそれを口に含んだ瞬間、今まで知ることのなかった味に声を上げた。まろやかで優しい甘さに舌が包まれる。
「もう植物性油脂には戻れないな」
「ほんとそれ」
駐車スペースのガードレールにもたれる。眼下には僕らが住む街があった。結構上ってきたものだ。――ここからさらに北上すると、緩やかに下って海へとたどり着く。砂浜だったらよかったが、残念ながら海水浴場のある砂浜のバリケードは分厚い。この先は、岩肌の多い岩礁だ。――もっとも地図で見ただけで、この目で見たことはないのだが。
遠くの景色を見ながらぼうっとしていた。
オーディオシステムを切って、エンジンも切って、しばしの沈黙が訪れていた。だが――それをびちゃびちゃとした水音がぶった切った。
彼女が口に含んだ牛乳を吐いていた。
「えほっ。うぇっほ」
それから咳き込み、嘔吐いて、屈みこんでアスファルトの上に透明などろどろの吐しゃ物を吐いた。俺はカンナのもとへと駆け寄った。
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