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折り重なっていた身体を解き、地面に仰向けになる。身体じゅうが痛む。けれど、ようやく旅の終着駅へと僕らはたどり着いた。がくがくと身体を震わせながら、鼠色の岩礁に倒れこむ彼女の肩を揺さぶる。
「カンナ、着いたぞ」
彼女はゆっくりと目を開けて、息を吹き返した。そして静かににっこりと笑った。
「ええ。聞こえるわ、波の音が」
ざあざあとひびく波の音。役目を終えた車体からは、まだKAORIの歌声が流れていた。スピーカーの振動子が破損しているのか、ぶつぶつとノイズが混じっている。
》
歌を聞かせて 過保護な世界に
生きる保証を 自由と引き換えに
強くなれない あたしは翼じゃ
飛べないくらいに肥えて 這いつくばっている
見上げられたものじゃない
もっと早く決めるべきだった
この身体が穢れを知る前に
美しく死にたかった
どこまでも飛んでいく 純白のこの衣を
脱ぎ捨てて 海の青さを
この目に焼き付けて 壁の向こう側へ
》
「着いたのね、壁の向こう側に。――海に」
彼女は魚のように跳ねて、僕に飛びついてキスをした。
「ああ。叶えたのさ。僕らはKAORIの叶えられなかったもう一つの未来を」
僕らは互いに肩をたたき合って喜んだ。再開した戦友のように抱擁した。
岩礁に打ち寄せる波と、カモメの歌声が僕らを祝福した。
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