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彼女の肩を支えながら、ともに一歩また一歩と岩礁を歩いていく。
一歩、また一歩と歩くたびに、彼女の歩幅は狭くなっていった。やがて、僕に引きずられるように摺り足になっていく。
空しくて、悲しくて、僕の頬を水が伝って擦りむいた傷に沁みこんだ。
「あり……がと……う……」
海に向かって突き出した岩場の先端までたどり着いた。地面にはところどころ小さな潮だまりができていて、潮の満ち引きによって、ここまで海水が侵入していくのだということを知らせている。ぬるぬるとした藻がうちあげられていて、足を取られてしまいそうだ。
彼女はその場に座り込むと、迷わずにズボンのポケットに忍ばせていたタバコに手を伸ばした。指先ががくがく震えて、火をつけるのに手間取る。
細くて長いタバコ。――いつか彼女の姿を知る前に想像したけれど、その細さは、彼女の指にそっくりだ。火が灯って、ヤニとラベンダーとメンソールの混じった複雑な匂いが鼻孔を刺激した。――カンナの匂いだ。
「げほっ! うぇっほ! ――これね……、ピアニッシモっていうタバコなの。KAORIもっ、よく吸っていたっ……」
自身の象徴だったタバコも、彼女は受け付けなくなってしまっていた。
それを否定しようと口づけては、咳き込んで嘔吐いてを繰り返す。彼女が吸うタバコの苦みが、僕の口の中にまで伝わってくるようだった。
「ねぇ……、今までありがとうねっ」
そう言って彼女は僕に煙を吹きかけてから、一服を終えた。
目にぴりりと煙が沁みて、また頬を滴が伝うのを感じた。
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