Track.5 僕らの最期

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 そして、彼女は海面に向かって倒れこんだ。背中に羽が生えていることを知っているように潔く、彼女は飛んだ。  そう、彼女は飛んだんだ。  ぼしゃんと鈍い水音がして、遅れてカモメが鳴いた。  青い青い海の中に彼女は沈んで、浮き上がってくることはなかった。――しばらくはそれを期待したけれど。彼女は僕とは違って、潔い人間だった。  潔くて、かっこつけで。  弱くて、儚くて。  自分勝手で、だけどたまらなく、いじらしかった。  その場に座り込んだ。地面に付いた右手に、何かが当たる。彼女のライターとピアニッシモのタバコが、岩場に取り残されていたのだ。タバコを吸ったことはなかったが、僕は何の迷いもなくそれを口にくわえた。  細身のタバコは、男の僕には似合わなかった。――けれど火をつけると、あのヤニとラベンダーとメンソールの混ざった複雑な匂いが僕の口中から鼻孔を満たした。  口の中に、煙とともに彼女の味が広がった。  僕はそれを、顎を動かして咀嚼して、悦に浸った。耳には、寄せては返す波の音。  本来知るはずのなかった世界の中で、静かにゆっくりと目を瞑った。
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