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彼女の名前は、KAORI。
僕の心に傷を残した曲が、スピーカーから流れ出てきた。“VEIL OFF”――彼女が最後に出したシングル曲だ。
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歌を聞かせて 過保護な世界に
生きる保証を 自由と引き換えに
強くなれない あたしは翼じゃ
飛べないくらいに肥えて 這いつくばっている
見上げられたものじゃない
もっと早く決めるべきだった
この身体が穢れを知る前に
美しく死にたかった
どこまでも飛んでいく 純白のこの衣を
脱ぎ捨てて 海の青さを
この目に焼き付けて 壁の向こう側へ
》
『この歌は、もう一度自分が生き直すことが出来たら、こんな風に生きてみたいなって思って作りました。――私はきっと強い人間ではないと思います。こうして、私が普通の人間のように生きているということを望んでいた人も、それで裏切られたという人もいるんだと思います。私はこうなった以上、KAORIとしては死んだんだなと思います。
――ですから、これは私の新しい声であり、最期の声であり、後悔の声です』
頭の中で彼女の最後のインタビュー映像が流れる。
彼女の言うことはよく分からない。「私はきっと強い人間ではない」――どうしてそんな謙遜を彼女が言ったのか。彼女は僕らの声として10年間をひた走ってきた。そんな彼女が強くないだなんて。
それから数年後、彼女は一般人の男性と結婚したことが報道された。心の奥底で、何かがくしゃくしゃに丸められるような音がした。
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