Track.1 僕らの始まり

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 彼女の名前は、KAORI。  僕の心に傷を残した曲が、スピーカーから流れ出てきた。“VEIL OFF”――彼女が最後に出したシングル曲だ。 》 歌を聞かせて 過保護な世界に 生きる保証を 自由と引き換えに 強くなれない あたしは翼じゃ 飛べないくらいに肥えて 這いつくばっている 見上げられたものじゃない もっと早く決めるべきだった  この身体が穢れを知る前に 美しく死にたかった どこまでも飛んでいく 純白のこの衣を 脱ぎ捨てて 海の青さを  この目に焼き付けて 壁の向こう側へ 》 『この歌は、もう一度自分が生き直すことが出来たら、こんな風に生きてみたいなって思って作りました。――私はきっと強い人間ではないと思います。こうして、私が普通の人間のように生きているということを望んでいた人も、それで裏切られたという人もいるんだと思います。私はこうなった以上、KAORIとしては死んだんだなと思います。  ――ですから、これは私の新しい声であり、最期の声であり、後悔の声です』  頭の中で彼女の最後のインタビュー映像が流れる。  彼女の言うことはよく分からない。「私はきっと強い人間ではない」――どうしてそんな謙遜を彼女が言ったのか。彼女は僕らの声として10年間をひた走ってきた。そんな彼女が強くないだなんて。  それから数年後、彼女は一般人の男性と結婚したことが報道された。心の奥底で、何かがくしゃくしゃに丸められるような音がした。
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