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「……お前の方か」
──どうやら待ち人ではなかった。
確かに『神谷』である事には変わりないが、待っていたのはそっちの方ではない。
「もう、なんで残念そうなのー?私が来たっていいじゃん?」
「いいや、別に……なんか用でもあったか?」
「ううん、久しぶりにりょーちゃんの顔が見たくなっただけだよ」
「毎日会ってるだろ」
突然現れた普通科の少女──神谷茉莉沙は、可愛らしい短めのツインテールを振りながら、一回り背が高い浪川に上目遣いで話しかける。
神谷の苗字が指し示す通り、彼女は神谷健吾の妹であり、同時に浪川涼介の幼馴染の一人だ。
「ねえ、久しぶりに会ったんだし、お兄ちゃんもまだ来ていないみたいだから……ちょっとぐらいいいよね?」
「ちょっとぐらいって……」
浪川の二の句を待たずに、茉莉沙は彼の腕に強くしがみつき、身を抱き寄せた。
「うおっ!?」
突然の出来事で声を押し殺しきれず、浪川は情けない声を漏らす。
「おいおい、公衆の面前で何してんだよ……怒るぞ」
「こういうとき怒らないのは知ってるもーん。へへー。りょーちゃんの匂い……」
「堪忍してくれよ、全く……気が済んだらさっさと離れろっての」
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