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「……よう」
来てしまった。
神谷健吾……何故この男はいつもこう悪いタイミングでやってくるのだろう。
色づいた二人の間の空気を打ち消すように、冷たい声が響く。
表情こそ笑顔(かなり黒い部類の)だが、目からハイライトが消え失せていて、正直怖い。
もし『思念素可視化グラス』をかけていたら、怒りの感情からエネルギーがオーラのように神谷の周りに漂っている様子が浮かぶだろう。
本能的な生命危機を感じた浪川は、本能的に後ずさりして、神谷から距離を取ろうとする。
神谷はまるでその殺意(敵意?)を緩めようともせず、ゆっくりと、ローファーの靴の底を鳴らして近づく。
「……他人の妹誑かすのは楽しいか?」
「え、えーっとだな、まず落ち着いて話を……」
「そうだな、話の前に妹の胸から手を離してくれないか?」
「あ……」
神谷が来て危機感を覚えた浪川は、無理矢理茉莉沙の腕を振り解こうとした。
しかし、不可抗力でなぜか彼女の胸を掴んでしまっていた。
やんわりと指を動かすと、服の奥の奥から柔和な感触が生々しく伝わってきた。
「んっ……」
甘い声が漏れる。
やらかした。
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