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二〇六〇年、四月一日。
東京都小鳥遊区、盟誓地区一等地に君臨する二つの巨頭は、その学園の威光を指し示すが如く、天を貫いてそびえ立っている。
都立盟誓学園と呼ばれる高等学校は、普通科を擁する東京都の公立校でありながら、現代科学に関連する技能職や研究職を専門としている『技術科』と、能力士(能力者の軍人や警察官などの総称)を育成する『実技科』を持つ、日本有数の専門学校としての側面を持っている。
今年は普通科五十八名、技術科三十名、実技科四十名。合計で百名以上の生徒が盟誓学園に入学した。
ある者は古典とされる魔法技術の再興を目指して。
ある者は華々しい青春の予兆に胸を高鳴らせて。
ある者は技術科に合格できず、普通科に配属となった無念を噛み締めて。
またある者は一流のエンジニアを目指して。
────そしてある者は、今は亡き者の背中を追って。
それぞれ、思い思いの感情を抱き、この学校の門をくぐった。
ビル内体育館にて、入学式は閑雅に、それでいて揚々としたどよめきを擁しながら催された。
現東京都知事、学校長、様々な人物のスピーチ、祝電披露を一通り終えると、今度は生徒が壇上に登る番に変わった。
その眼差し、立ち振る舞いは、今でも彼の印象に強く残っている。
無知なりに花に例えるなら、北欧の厳しい寒冷の中でも凛と咲き誇る勿忘草の様だった。優雅でありながら、その容貌とは裏腹の豪傑さを感じる少女だった。
クラス決め、最初の行事でもある歓迎会、その他先輩達や先生からの激励。しつこい部活動勧誘……忙しない日々が続いた四月はあっという間に過ぎていった。
そして、カレンダーは早くも次のページをめくり始めた。
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