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五月一日
「………………」
少年は、しばしば学校の図書室を訪れている。
決して少年は友達は少ない方ではないのだが、大人数で騒ぐのはあまり好きではない。
それに、教室にいるとどうしても暑苦しい。今年の五月は三十度を軽く上回る、異常とも言える炎天下だ。いくら空調機器が標準設備とはいえ、冬の寒さの方が好きな少年にはさすがにキツイものがある。
その点、図書室は気が休まる。静かな空間、人に遮られずに行き届く冷房の風、豊富なマンガ本──くつろぐには一番適してる場所だと少年は密かに思っていた。
そんなマンガ好きの少年が今読んでいるのは、そんなポップなイメージとは縁遠い、著者の顔写真が載ってるだけの質素な表紙の本だ。
少年は字が多い本は苦手だ。アーケード街のタイルのように敷き詰められた文字の数々を読むのは頭が痛くなる。
少年の苦手科目は現代文、英語、歴史、古文と、文字が主体の科目だ。理系科目は計算するだけだからまだしも、こういった類の科目には一向に慣れる気配がない。少年がそれを良く思っていないのは確かで、その克服のために、いかにも難しそうな内容の本を読んでいる。
「ダメだ……難しすぎる」
しかし少年はあえなく読書を断念し、寝転がっていたソファから身体を起こし、目の前の本棚にその本を戻した。人には得手不得手というものがあるらしいが、余りにもハッキリ不得手と出ると気分が良くない。
「あーあ。克服したいんだけどな……読書嫌い」
「まだ最後まで読めてないのか?浪川」
そう言いながら、別の少年がソファに腰掛ける。態度から本を読んでいた少年……浪川涼介と仲が良い相手なのは明白だ。
盟誓学園の制服を少し着崩した少年に対して、多くの人が抱く第一印象は『ガサツ』だろう。 実際その通りで、あまり些事に目利きできるような性分なので言い訳しようはない。
都立盟誓学園技術科、1-D所属浪川涼介。それが彼のプロフィールだ。
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