Chapter1『思念素の世界の少年達』

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週に一度の模擬論文作成はかったるいが、浪川はもう慣れた。論文サイトからそれっぽい言葉を選んで生徒一人一人に配られた腕時計デバイス__DWatchに書き込めばいいだけだ。  浪川が腕時計デバイスの画面をタッチすると、長方形、丁度タブレット端末ぐらいのサイズのホログラム状のウィンドウが空間上に現れる。(この時代では、携帯電話の代わりに腕時計型情報端末が主流となっており、DWatchはその中でも最もシェアの高いブランドである)  盟誓学園の授業カリキュラムは、全日制、一時限三十分の七時限制で、必修科目と選択科目(古文or漢文、生涯体育or保険体育、他にも政治経済、福祉教養、調理基礎、実技美術、IT活用など、多くの科目がある)から三つまで生徒自身が選ぶ。  実技科と技術科では、三つの必修科目とは別に、科学を必修科目として専門的に勉強する。  具体的には、技術科ではエンジニア志望の生徒向けに高校工学を、実技科では能力者が登場してからの社会情勢などを勉強する。  高校工学は、自主研究で自身が作ったものや研究論文を発表し、実際に動かしたりする実技が主だが、思念素や、それに基づく物理、生物、地学、化学、工学についての筆記学習が主となっている。大半の生徒は市販のキットを購入し、それを自分が使いやすい様にアレンジするが、神谷の様に自力で一から作ろうと考える者もいる。  今日は宿題として自主研究の成果を思念工学担当の先生にメールで報告するのだが、浪川はどうしてもこういった堅苦しい作業が性に合わないらしい。神谷の手助けで何度か自分で書いた事はあるものの、結局はレポートの定型文を提供するWEBサイトのをそのままコピーするのが関の山で、今回もその御多分に洩れず、といったところだ。 「ふー、頑張った。あとは神谷が来るのを待つか」  ため息をするように浪川が言うと、自身が手につけていた学校配布のDWatchを取り外して、学校のバッグに雑にしまった。入れ違いでバッグから取り出したのは、派手な赤色をした、浪川愛用のプライベート用DWatchだ。  流行りのゲームアプリを起動し、しばらく時間を潰していた。ゲームに飽きかけてきたところで、ちょうど自分の方向に近寄ってくる足音が聞こえたので、神谷かと思って浪川は振り向いた。 「おっはー。りょーちゃん元気ー?」
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