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Chapter3『ようこそ、生徒総本部』
「…………」
小鳥の鳴き声が心地よい中庭に吹く温暖な風は、春という季節に似つかわしくない湿っぽさを纏っている。
中庭で紅茶を飲みながら読書する少女は日本人とは思えない絹のような白い肌と、高校生とは思えない大人の色香を醸し出していた。
少女は特にそれ以外の行動を起こすわけでもなく、ただずっと本を読んでいる。
ただ、その本を見つめる瞳には真摯に物語も向き合う気力もなく、惰性で読んでいるように見える。
「…………」
「おっ、中庭で読書か。いいなぁ、ヤギちゃん」
読書の最中に、唐突に後ろから黒いスーツの男が現れた。色気の染み込んだ渋い声にサングラス。色男という言葉が綺麗に似合う男だった。
ヤギちゃんと呼ばれた少女は本を閉じ、露骨な溜息をついた。
「……東城先生、私のことをヤギちゃんと呼ぶの、やめてくださる?」
「むう、不服そうだな。じゃあイオちゃんとかでいいか?」
「普通に八木奈と呼んでください。それ以外の呼び方をするなら、二度と酒が飲めない用にアルコール耐性を勘定します」
一切の情け容赦なく放たれるその言葉に、東城はやむなく一歩引くことにした。
「わかったわかった、それだけは勘弁してくれ……で、早速で悪いが、八木奈ちゃんに一つ頼みたい事があるんだが……」
八木奈は東城に体を向ける。
長い髪の毛に、つり上がった目。慇懃ながらも人を見下すような冷徹な立ち振る舞い。彼女は関川とはまた別種の優雅さを持っていた。
色めく唇が言葉を紡ぐ。
「珍しいですね。あなたが人を頼るというのも」
「矜恃や見栄はいつでも曲げられるが、背に腹はかえられんからなぁ。全く、世知辛い世の中になっちまった」
照れるようにハットを深くかぶる東城に対し、八木奈は催促する。
「前置き聞いてるほど暇じゃないの。さっさと要件を言いなさい。その気になったら聞いてあげる」
「はいはい……わかったよ。念のため言っておくが、クールな女も嫌いじゃないぜ?」
「早くしなさい」
「ああ、単刀直入に頼もう……」
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