アンバーの箱庭

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「テオドール、お前は俺の初恋だ」 「……茶を飲んでたら、忘れるさ」  お気に入りの紅茶の香りが部屋中に広がる。丁寧な動作でティーポットを傾け、カップに琥珀色の液体を注いでいく指先は、血が通っていないかのように白い。彼はその眉を寄せ、苦しそうに誤魔化した。誤魔化したのだとわかる、そんな言い方だった。  その言い方に、大地はむっとして眉根を寄せた。その言い方は、まるで大地にとってのテオドールが無価値な物のようだった。否、それ以下。テオドール自身が、大地にとってだけではなくこの世において無価値な物のようだった。 「俺には、お前以上に大事なものなんてない」  ひくり、と少しだけ肩が動いた。伏し目がちなその瞳に浮かぶ動揺。そして、いくつかの感情。はっきりとそれが何であるかと明言することは出来なかったが、彼の苦しみや葛藤が色濃く滲んでいるのは分かった。一瞬の沈黙の後、強ばった口元から声が漏れる。 「俺には……お前以外なんてない」  告白にもとれるそれは、愛という言葉の暖かさなどまるでなく、恋という言葉の甘やかさも持たなかった。神を求める信者のように、主に従う奴隷のように、ただただ大地の足元に跪き、許しを請う。そんな一言。  解放を望むそれを、大地は受け入れない。受け入れられるはずもない。  嫌いだも、愛しているも、彼には絶望しか与えない。大地は愛の言葉を、口にした紅茶の中に沈めた。代わりに笑顔と共に言った。
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