アンバーの箱庭

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「お前は、私の初恋なんだよ」 「大地さん、とりあえずお茶でも飲めよ」  目の前に座る男は、大地のためにティーポットを傾けた。その動作は、彼の筋張った無骨な指に似合わぬ繊細さだった。ギリシャ彫刻のように整った指先が、ティーポットと合わせてまるで美術品のように見え、大地は目を細める。白いカップの底で翼を広げる鳥が、とろとろとした甘味を孕む琥珀の海に沈んでいく。それを眺めながら、大地はなんとかはぐらかそうとしている男を窘めるように、やんわりと言った。 「出会った時からね、好きだったんだよ。だから、そんな他人行儀に呼ばないでくれ、いつもみたいに大地と呼んでくれないか」  少しだけ困ったように目を逸らした彼は、そのすっと引かれたような凛々しい眉根を寄せて、言いにくそうに大地、と呟いた。その響きに、大地は胸の奥がぐっと締め付けられたような気持ちになる。拒絶するかのようにさえ聞こえる硬い声。彼の唇を震わすそのたった三文字が大地の心を揺さぶった。
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