アンバーの箱庭

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「テオドール、お前は俺の初恋なんだ」 「大地、とりあえずお茶でも飲めよ」  目の前に座る男は、大地のためにティーポットを傾けた。無骨ながらも白く美しい指先は、ポットと同じ陶器で出来ているようだった。触れたら、同じように冷たいのだろうかと、大地は目を細める。白いカップの底で翼を広げる鳥が、揺れる琥珀の海に沈んでいく。それを眺めながら、大地はなんとかはぐらかそうとしている男を窘めるように、やんわりと言った。 「俺の初恋まで否定しないでくれ」 「……俺はお前の好みが、巨乳でセクシーグラマラスな年上美人だと知ってるが」  毒づくテオドールに、大地は肩を竦めた。 「単純に好みの話で、俺の初恋が誰かとは別だろう」  きっぱりと言い切り、手を伸ばし、指先で滑らかな頬を撫でる。テオドールは少しだけ眉を寄せて、やりきれないような顔をした。 「俺は、お前のその白い肌が好きだ。アクアマリンみたいな目も、案外柔らかい髪も、セクシーな口元も、そこから紡がれるベルベッドのような声も、男なら誰でも憧れるような筋肉も、憂いを帯びた仕草も、全部好きだよ。一目惚れだったと言っても過言じゃない、それは勿論見た目だけの話じゃなくて」 「やめろやめろ。そんなのは女に言え」  テオドールが大地の声を遮る。大仰とも、芝居がかっているとも取れる美辞麗句に、彼は眉を寄せていた。頬が薄く紅に染まっている。可愛らしいとも取れるその表情に、大地は少しだけ気をよくして笑った。 「お前にだから、言いたいんだ」  彼は居心地が悪そうに、再び悪態を吐こうと唇を開いた。その唇を、大地はそっと腕を伸ばし指先で止める。彼の言葉は半分くらいは嘘で出来ている。それは優しく彼自身を守るのを知っているから、責めはしない。けれど聞きたいかどうかはまた別の問題だった。 「お前がどう思うかと、俺がお前を綺麗と思うかどうかは別だ」  彼の逃げ道を一つ塞いで、追い詰められて息を詰める様に、いけないことをしていると分かりつつも、後ろ暗い快楽を覚えてしまう。そんな自分を誰か許してくれまいかと、大地は小さく細く息を吐き出した。
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