7人が本棚に入れています
本棚に追加
「テオドール、お前は俺の初恋なんだ」
「大地、とりあえずお茶でも飲めよ」
目の前に座る男は、大地のためにティーポットを傾けた。無骨ながらも白く美しい指先は、ポットと同じ陶器で出来ているようだった。触れたら、同じように冷たいのだろうかと、大地は目を細める。白いカップの底で翼を広げる鳥が、揺れる琥珀の海に沈んでいく。それを眺めながら、大地はなんとかはぐらかそうとしている男を窘めるように、やんわりと言った。
「俺の初恋まで否定しないでくれ」
「……俺はお前の好みが、巨乳でセクシーグラマラスな年上美人だと知ってるが」
毒づくテオドールに、大地は肩を竦めた。
「単純に好みの話で、俺の初恋が誰かとは別だろう」
きっぱりと言い切り、手を伸ばし、指先で滑らかな頬を撫でる。テオドールは少しだけ眉を寄せて、やりきれないような顔をした。
「俺は、お前のその白い肌が好きだ。アクアマリンみたいな目も、案外柔らかい髪も、セクシーな口元も、そこから紡がれるベルベッドのような声も、男なら誰でも憧れるような筋肉も、憂いを帯びた仕草も、全部好きだよ。一目惚れだったと言っても過言じゃない、それは勿論見た目だけの話じゃなくて」
「やめろやめろ。そんなのは女に言え」
テオドールが大地の声を遮る。大仰とも、芝居がかっているとも取れる美辞麗句に、彼は眉を寄せていた。頬が薄く紅に染まっている。可愛らしいとも取れるその表情に、大地は少しだけ気をよくして笑った。
「お前にだから、言いたいんだ」
彼は居心地が悪そうに、再び悪態を吐こうと唇を開いた。その唇を、大地はそっと腕を伸ばし指先で止める。彼の言葉は半分くらいは嘘で出来ている。それは優しく彼自身を守るのを知っているから、責めはしない。けれど聞きたいかどうかはまた別の問題だった。
「お前がどう思うかと、俺がお前を綺麗と思うかどうかは別だ」
彼の逃げ道を一つ塞いで、追い詰められて息を詰める様に、いけないことをしていると分かりつつも、後ろ暗い快楽を覚えてしまう。そんな自分を誰か許してくれまいかと、大地は小さく細く息を吐き出した。
最初のコメントを投稿しよう!