アンバーの箱庭

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「……そんなことばかり言って……なぁ、大地、俺との約束、覚えているか」  テオドールは瞳をそっと伏せて言った。口角はほんの少しだけ釣り上げられて笑みを模るものの、その目は全く笑っていなかった。今にも音を立てて切れてしまいそうな程に張り詰められた糸。その糸が緩んでしまえば、その手も足も力を失いだらりと垂れ下がるだろう。操り人形を支えるように、彼を支えるそれを切ってしまわないように、という緊張感。 「お前との約束を忘れる訳がないだろう」  彼の瞳の奥、張った糸が緩んだのは、肩の力が抜けたからだろうか。それとも、支えを失ったからだろうか。 強い風が吹いて、テオドールは窓を閉めに席をたった。真っ白なカーテンが彼の体を包む。そのまま、空気に溶けていってしまう、と、唐突に大地は思った。ぱたん、と占められた窓ガラス。風に舞うのを止めたカーテン。助けて、と声が聞こえた気がした。
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