アンバーの箱庭

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「大地」  必死で彼を呼ぶ声が、脳内で反響した。 「思い出してくれ」 「約束なら、覚えているよ」  彼の骨ばった指がぎゅっと強く握り締められる。力がこもりすぎて震える拳に、手のひらを重ねる。その手は、ひんやりと冷たく、大地は少しでもいいからこの温度を分けてやりたいと思った。もし、それをテオドール自身が良しとしなくとも。 「……死なないでくれ」  重低音が更に低く、低く、掠れた。その痛みも悲しみも、受け止めて抱きしめてやることができずに、大地は息を大きく吸い、吐いた。 「死ぬよ。生きている限り、必ず死ぬ」  置いていかないでくれと、言っているような気がした。彼はその顔を歪めて、悲しそうに笑った。 「約束を守ってくれなければ…………恨むぞ」  憎むでも怒るでもなく、悲しみに満ちた瞳で恨むと言う彼に、いじらしさを感じた。今すぐに、自分より体格のいい彼を腕の中に収めて、強く抱きしめてやりたかった。一秒でも遅ければ、きっと大地はそうしていた。しかし、鳴り響いたインターホンに息もつけないような停滞した空気が壊される。  テオドールは、大地から顔を背け、玄関に向かった。鍵が開く音がして、聞き覚えのある声がする。 「おーい! 大地! 行くぞー」 「わかった」  呼ばれて渋々立ち上がる。玄関に向かえば、大地の親友がそこに立っていた。 「平平。どうした。行くって、どこへ?」 「おいおい、今日は俺と約束してたろ? 泊まりの約束だ」  なんの約束だったか忘れたが、約束したというのならそうだろう。むしろそんなものはなかったかもしれない。何故なら、彼は少々強引なところがあるから。そう思って、大地は頷く。 「分かった分かった。なら一緒に行くか」  平平は、満足げにその唇を上げた。
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