7人が本棚に入れています
本棚に追加
「大地」
必死で彼を呼ぶ声が、脳内で反響した。
「思い出してくれ」
「約束なら、覚えているよ」
彼の骨ばった指がぎゅっと強く握り締められる。力がこもりすぎて震える拳に、手のひらを重ねる。その手は、ひんやりと冷たく、大地は少しでもいいからこの温度を分けてやりたいと思った。もし、それをテオドール自身が良しとしなくとも。
「……死なないでくれ」
重低音が更に低く、低く、掠れた。その痛みも悲しみも、受け止めて抱きしめてやることができずに、大地は息を大きく吸い、吐いた。
「死ぬよ。生きている限り、必ず死ぬ」
置いていかないでくれと、言っているような気がした。彼はその顔を歪めて、悲しそうに笑った。
「約束を守ってくれなければ…………恨むぞ」
憎むでも怒るでもなく、悲しみに満ちた瞳で恨むと言う彼に、いじらしさを感じた。今すぐに、自分より体格のいい彼を腕の中に収めて、強く抱きしめてやりたかった。一秒でも遅ければ、きっと大地はそうしていた。しかし、鳴り響いたインターホンに息もつけないような停滞した空気が壊される。
テオドールは、大地から顔を背け、玄関に向かった。鍵が開く音がして、聞き覚えのある声がする。
「おーい! 大地! 行くぞー」
「わかった」
呼ばれて渋々立ち上がる。玄関に向かえば、大地の親友がそこに立っていた。
「平平。どうした。行くって、どこへ?」
「おいおい、今日は俺と約束してたろ? 泊まりの約束だ」
なんの約束だったか忘れたが、約束したというのならそうだろう。むしろそんなものはなかったかもしれない。何故なら、彼は少々強引なところがあるから。そう思って、大地は頷く。
「分かった分かった。なら一緒に行くか」
平平は、満足げにその唇を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!