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3月5日。
私の誕生日だ。
私は、まだ暗いうちから準備を始める。
温かいスープとココアを魔法瓶に注ぐ。
サンドイッチとマシュマロをバッグに詰め込み、ブランケットを抱えて、キャンプ用のストーブを持って、家を出る。
外は、日が昇り始めていた。
私は、零れ落ちそうになる涙をこらえて、公園へと続く坂を登る。
雨は、降っていなかった。
それでも私は、東屋を目指して、ひたすら歩く。
東屋に着くと、ストーブに火を灯し足元に置いて、ブランケットに包まってベンチに腰掛ける。
背後から差し込む朝の光は清々しいまばゆさで、街を目覚めさせていく。
ブランケットの中で、私の身体が震えている。
寒くはなかった。
雨が降らないことが怖くて、ぎゅっと目をつぶった。
しょうちゃんはがいなくなってしまった。
身体の中心がすっと冷えて眩暈が起きそうになった時、パラパラと東屋の屋根で雨音がした。
目を開けると、まばゆい日の光の中、雨が降っていた。
雨は光を乱反射して、光の粒となって街に降り注ぐ。
ほんの短い時間で、雨は行ってしまった。
後には、雨に濡れて、朝日に輝く街が残された。
私は、しょうちゃんを思って泣く最後の涙を流した。
おわり
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