雨に濡れる女

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雨に濡れる女

 雨の降り続ける町に人影はなく、視界は不明瞭なまま。傘を持つ手は凍えるように震える。この町に来てから、何かを失い続けているような気がしてならない。その何かはわからないが、原因はある程度予測がついた。  この町では雨が止まない。おかげで陰鬱とした沈黙が町を支配するが、一方で、規則正しい不規則な雨が、この町を成り立たせる。住人はこの不可思議な現象を、信仰をもって迎え、合理性で乗り越えようとした。そしてその信仰と合理性の融合した文化は、他にはない魅力だとされている。  しかし、魅力は同時に幻滅を引き起こす。この町の文化は、あくまでも不可思議な雨に対するためのものでしかない。つまり、神のためのものであって人のためでなく、住人は粛々と信仰を捧げ続ける。まるで機械的なのだ。  今もようやく住人を見かけたが、あまりにも反応に乏しい。余所者に冷たいのではない。住人同士でも、会話はほぼないのだ。見かけた住人たちは、黙々と配管を修理している。手際に無駄はなく、丁寧に、迅速に、それだけが美徳かのように動く後ろ姿。雨に濡れているはずなのに、何もかもが乾き切ってしまった姿。 それに心を動かすこともせず、横をすり抜けた。     
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