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約一年前、不安と少しの荷物を抱えてミノリはこの学園にやってきた。
ここの皆は、ミノリの過去を知らない。
名字を名乗らないので、名前だけで特定されることはない筈だ。
山奥にあるこの学校にはテレビ、新聞、ラジオ、携帯電話等の外部の世界とアクセスする手段はない。
長期休暇中も帰省することがないので、あの事件を知る学生はいないだろう。
案内された寮の自室は、屋根裏の物置に急遽家具を詰め込んだ一人部屋だった。
季節外れに転校してきた私が悪いのだから、そのままの物置部屋でも良かったのに。
自嘲しながらミノリは窓を開けてから荷物を置き、ベッドに横たわる。
目を瞑ってしまえば、自身の呼吸音しか聞こえない。
来た。私は逃げて来たんだ。無遠慮に切られるシャッター、フラッシュの光。
ヒソヒソと陰口を叩く周囲の人々。玄関の落書き。
それに比べてどうだろう。ここは、静かだ。
……静かで、孤独で、寂しい。
家族から離れて、知り合いも居らず、誰一人として自分を知らない環境。
堪らなく冷たい世界に思えた。起き上がり、自分を抱き締める。
もう、自分を暖かく迎えてくれる家も、無条件で甘やかしてくれる手も、ない。こちらから手を離したのだから。
鼻の奥がツンとして、涙が溢れてくる。
泣く資格などないのに。
拭っても拭ってもそれは止まってくれない。
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