第一章

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聞き慣れた目覚まし時計のアラームの音だったが、見慣れない天井に飛び起きた。 心臓がドクドクと脈打って、掌に汗が滲んでいる。 ベッドから転がり落ちたところで自分が何処にいるのかを思い出し、大きく息を吐き出した。 痛む背中を擦りながら、起き上がりカーテンを開ける。 朝日の眩しさに、ミノリは思わず目を細めた。 昨日は景色を見る余裕などなかったが、部屋からは一面、山しか見えない。 秋には紅葉が美しいだろうが、 生命活動を止めた冬山は、葉が落ちて剥き出しの木の幹や枝しか見えなかった。 窓から少し身を乗り出して左右をみるが、学園以外の建物は確認することはできなかった。 山に囲まれている。校舎や寮、そして教会などの学園の施設以外の人工物は一切確認することができない。 昨日は長時間の車移動で疲れて寝てしまい、いつの間にか寮の前に着いていた。 だから、ここが日本の何処に位置しているのかをミノリは知らない。 携帯電話があれば調べることができるだろうが……。 校則で携帯電話の持ち込みは禁止されている。 携帯電話だけではなく、ラジオやパソコンなどの通信機器の持ち込みは固く禁じられているのだ。 「調べたところで、どうなる訳でもないか……」 帰る場所は、ここしかないのだから。 ジワリと涙が滲む。 捨て置いてきた思い出に押し潰されそうになる。 ズルズルとその場に座り込んだとき、扉が控えめな小さなノック音が聞こえた。
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