27人が本棚に入れています
本棚に追加
隣にいた筈のスマはいなくなっていたし、タカユキはアズマの仲裁に行ってしまった。
彼女だけが、その場から動けなかった。
日常が、崩れていく。
いや、そもそも日常とは何だ?
穏やかな日々が日常なんて、いつから勘違いするようになったんだろう。
……昔のように、嵐が過ぎるのを待てば良いのだ。
ミノリが目を閉じようとしたとき、颯爽と争いの中に飛び込む人物がいた。
「そこまで!」
スマだ。
コップに水を入れて、それを二人にぶちまけたのだった。
突如として冷水を浴びせられた彼らは、文字通り頭が冷えたのだろう。
電池が切れたように動きを止めた。
「ふふ。一度、こうやって仲裁に入って見たかったの」
夢が叶ったわ。
場違いに微笑む彼女は、完全にこの場を支配していた。
「……先生たちが来る前に行くわよ。この学園から追い出されて、行く宛なんかないんだから」
スマは、自らの拳を見つめたまま動かないアズマを戒めて立ち上がるように促した。
タカユキに半ば引き摺られるようにして、アズマは食堂の出口へと向かう。
「ミノリ、一人にしてごめんなさいね。さ、私たちも行きましょう」
黙って頷いたが、足は鉛のように重たかった。
人が争うのを見るのは久しぶりだった。
それに、男子生徒を殴り付けるアズマが笑っていたように見えて……狂気を感じたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!