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不安な気持ちがなくなると、遅れて寒さを感じた。
刺すような冷気に肩をすくませる。
暖房をつけたが、礼拝堂は広いので一向に暖かくならない。
静かな空間にアズマと二人きりで、どこか気まずさを感じる。
今までアズマと二人きりになったことは……あっただろうか。
沈黙が痛い。
話題を探しては頭の中で、あれでもない、これでもないと打ち消していく。
「ミノリ」
「っはい!」
思わず敬語で返事をしてしまった。
「……座れば?」
「そうだね」
隣に座るのも、なんだか……。
けれど、離れて座るのも失礼かもしれない。
なかなか着席しないミノリを、不思議な顔でアズマが見つめる。
悩んだ末に、ミノリは通路を挟んで隣に腰かけた。
右隣のアズマを盗み見る。
制服のブレザーは乱れていて、腕の釦は千切れていた。
あの殴り合いから一時的に礼拝堂に避難し、その後すぐにスマとタカユキは、ぐちゃぐちゃになった食堂を整理しに行った。
それと、先生たちにバレていないかを確認しに行ったのだ。
この学園に来る生徒は何かしらの事情を抱えている。
けれど、それを聞くことはない。聞かないことが暗黙の了解になっていた。
事情があるのはお互い様だからだ。
事情がある彼らが、ここで問題を起こして退学になれば……行く宛がなくなる。
実際に退校処分になった生徒を知らないから、全ては生徒たちの憶測だが。
全寮制の、この家を、居場所を無くしたくない。
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