《1》

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 忠真と二人で大樹に駆け寄る。槍は、幹の左側、人間の躰で言えば、心の臓の位置に突き刺さっていた。 忠高は槍を引き抜いた。 「いつ見ても兄上の投げ槍は凄いなぁ」 言いながら、忠真は樹の幹、左側に穿たれた大きな穴に手を触れている。 ここ数年、忠高の槍は毎回、大樹のほぼ同じ場所を貫いている。 「槍投げなど実戦ではほとんど役に立たん」 忠高は言った。 「槍投げだけではなく、槍のことなら兄上は何をやっても無敵ではないですか」 忠真が言う。 「この槍の腕前が鍋之助にも宿っておるのだとしたら、わくわくしてきますなぁ」 「鍋之助は今日産まれたばかりだぞ」 忠高は呆れ笑いを浮かべて、言った。 「兄上の子じゃ。きっと、兄上のように強い武士になるに違いない」 「わしを圧倒するくらいになるとよいのう」 「なりますとも。あの力強い泣き声を聞いたでしょう。あれは強くなりますよ」  忠高は空を見上げた。美しい夕焼け空だった。 待望の嫡男誕生から2日後、忠高は主君である松平広忠の命令で三河の小豆坂に布陣した。 尾張の織田信秀が岡崎城を攻め取らんと侵攻してきたのである。
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