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「お嬢様、起きましたか?もう9時半です、体調が─」
襖越しでいつもそばにいる使いの男が心配そうに声をかけてきた。それを振り払って、
「悪くはない、万全です。昨日徹夜をしてしまいました。」
と言い。使いの男は
「そうですか。」
と答えた。
「今日は稽古にでも出ようかと…」
「それなら準備して参ります。少々…」
そう言って男は行ってしまった。
千景は道着に着替えて道場に向かった。掛けられていた木刀を手に取り、相手に礼をした。
千景は一歩踏み込み、木刀を振り上げて相手の正面を取ろうとした、しかし相手は横に刀を振り胴を取ろうとした。それに、待った無しと千景は振り上げた木刀を瞬時に防御に回した。相手が判断の速さに圧倒している間に、スッと抜き相手の左肩に木刀を当てた。
相手は唖然としていた。相手は出張稽古の門人であったため、千景と相手をしたことが無かったので一層だった。
千景は、スッと一礼し後ろへと下がった。
「見るも絶えない剣術だな。」
後ろから男の声がした。その声からは威厳と強さが感じられた。
「師範」
師範─千景にとって父親のことである。
「眩耀さま…どうしてここに。」
千景の付き人の男が慌てた様子で問う。
眩耀は、不知火家の現当主であり、また一門の当主でもある。がっしりとした体格の持ち主で不知火がまとめている地域、それよりも外の地域の中でも随一の剣士だ。
「そんな剣術では、お前より上の相手には敵わないぞ、千景」
腕を組んで眩耀は言った。千景は下向き加減に、
「私には私のやり方があります。私は一門の者ではありません。私には正式な師がいます。」
そう答えた。
「私の事を師範と呼ぶのにか?」
声色を変えずに眩耀が尋ねた。
「形式上です。」
千景はそう言葉を残して、道場を立ち去った。
「すみません。お嬢様がです来た事を…」
付き人の男が一層慌てふためいて眩耀に謝罪した。
「いやいい。年頃の娘だ、尚且つ養子ということもある。」
そう言い残し、眩耀も道場から出た。
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