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「これ、食えそうやったら食えよ。」
そう言って父は、私にプリンの入ったコンビニ袋を差し出した。
白髪混じりになった父はいそいそと帰ろうとする。
「ありがとね。」
ぎゅっと袋を握りしめ、去る父の背中を見送った。
私が幼い頃、父とは仕事柄触れ合うことが少なく、まともに会話するようになったのは私が高校生になったくらいになってからだった。
普段無口な父と、大きくなってからもどう会話していいのかわからず、お互いに気を遣っていた。
そんな父は、幼い私の言った「プリンが好き」という言葉をずっと忘れないでいてくれて、何かある度にプリンを買ってきてくれた。
他にも好きなものはたくさんあるのだが、そんな会話になることもない為、父はプリンを買い続けるのだ。
成人して、結婚して、子供ができて、父が遊びに来た時、プリンを持ってニコニコと孫を見つめている姿を見て、なんだか涙が出そうになった。
こうして愛されてきたのだ、私は。
もうすぐ父の誕生日だ。
とびきり美味しいプリンを作って持っていって、一緒に食べようかな。
ついでに、お互いの好きなものの話をたくさんしようかな。
小さい頃はできなかった、とっておきの時間をプレゼント。
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