逃亡者

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

逃亡者

 数年前、妙な夢を見続けた時期がある。  前進する行列に、警官か軍人のようないでたちの男達が襲い掛かり、容赦なく行列の人達を捕まえていくのだ。  その行列から男が一人逃げ出すのだが、当然追手が迫ってくる。そこまでは必ず同じで、この先が日ごとに変化していた。  行列から飛び出した男は、近くの建物に入ったりそこいらの木によじ登ったりと、色んな方法で追手を撒こうとしていた。けれど必ず見つかり、 捕えられてどこかへ連行されていく。  夢自体は一ヶ月程度で見ることがなくなったが、内容はいまだにはっきりと刻まれたままだ。  だから、あれから何十年も経っているのに、俺は現在自分が置かれている状況が、夢とまったく同じだと断言できるのだ。  縁あって飼うことになった数匹の猫。どいつも猫にしてはおとなしく、飼い主である俺のいうことをよく聞くのだが、一匹だけ環境の変化に慣れないらしく、ケージから出すといつも家中を逃げ回る。  家具の隙間に入ったり、備え付けたキャットタワーに登ったり、とにもかくにも俺の追跡から逃れようと必死だ。  でも残念。お前は必ず俺に捕まるのだ。それはあの当時の夢が証明している。  ただ、お前が連行される場所はケージの置かれた部屋で、そこにはさっき用意したお前のご飯があるから、悪い思いはしてないだろう?  なのにお前から見た俺は、夢の印象通りだとすると、まるで警官か軍人なんだよな?  ちょっと酷くないか。そう思いはするが、まだこの家に来て一週間程度だもんな、慣れなくても無理はないか。  あの夢が現状を示しているのなら、きっと一ヶ月程度でお前はここに慣れるだろう。そう信じてお前の逃亡につき合うよ。 逃亡者…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!