もうひとつのロウソク

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「そういうことだったのか……」 喫茶店で水晶玉を見つめる向日葵の頬は濡れていた。高居夫婦が自分たちの運命を知っていて、赤ん坊の向日葵を私たちに託したような気がしてならない、と話したときの父親の顔を思い出した。 自分には二組の親がいて、どちらからも同じように愛されているのだと思った。 「高居のお父さんは、自分たち夫婦に1年だけの命を残し、全部私に譲ってくれたんだ」 「そのようだね」 占い師が目尻を下げた。 「君は高居夫婦から寿命というプレゼントをもらい、原野夫婦に大切に育てられてきた。もっとも、高居夫婦から与えられた寿命を足しても君が生きるのは63歳と少しまでだ。今の時代、63歳は短い人生と言える。しかし、これを見なさい」 占い師が水晶玉に手をかざすとオレンジ色の明かりが映った。1本の短いロウソクが頼りない炎を揺らしている。 「これは?」向日葵がきく。 「君の恋人、奥田克弘のロウソクだよ」 水晶玉の中で、奥田の寿命のロウソクは力なく燃えていた。 「誰も気づいていないが、彼は大病を患っている。この寿命のロウソクは、あと12年で燃え尽きるだろう。今日はクリスマスイブ。君が望むなら、このロウソクを君のものと交換してもいいのだが……」 占い師が小さな瞳で向日葵を見つめ、ニッと口角を上げて不気味な笑顔をつくった。
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