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クリスマスイブの朝、原野向日葵は寝坊した。
カーテンを開けると眩しい日差しが室内に降り注ぎ、庭を見下ろすとヒラヒラ揺れる洗濯物の向こう側で父親の岳人が柴犬のハチと遊んでいた。グオーンと鈍い音がするのは、母親の純代がリビングで掃除機をかけているからだ。
着替えた向日葵は小さな包みを手にして階段を駆け下りる。
「メリークリスマス」
リビングに飛び込んで手を振ると、「何がメリークリスマスよ。もうすぐお昼ですよ」と掃除機を止めた純代が腰を伸ばした。
「うん、分かってる」
向日葵は朗らかだった。今日は、いくら叱られても腹が立つ事などないだろうと感じていた。
「昨夜は遅かったわね。若い娘が夜遅くまで出歩くものじゃないわよ」
母親の苦言にも、「ハーイ」と笑みで応えた。
「どうしたのよ。にやついて」
純代は掃除機を片付け、キッチンに立つ。
「お母さん。それに、お父さんにも話があるの」
向日葵は窓を開けて、「お父さん。ちょと来てぇー」とハチにブラシをかけている岳人に声を掛けた。
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