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「メリークリスマス」
向日葵はソファーに掛けた両親にプレゼントを渡す。子供の頃は貰うばっかりだったが、就職してからはクリスマスプレゼントを贈るのを習慣にしていた。
「今年は一つか?」
岳人が小さな包みを前に娘の顔に眼をやる。
「まあね。でも、2人分の気持はこもっているはずよ」
「母さんが開けてみなさい」
「ハイハイ」
嬉しそうに純代が包みを開ける。出てきたのは、豪華客船のペア旅行券だ。
「まぁ。お父さん。旅行ですよ。五泊六日ですって」
「五泊……」
純代は手放しで喜んでいたが、岳人は喜びと困惑の入り混じった表情をつくった。
「お父さんも退職したんだから、五泊ぐらいできるでしょ。ハチの世話なら私が見るから」
「簡単に言うなよ。朝晩と散歩をしないといけないんだ。寝坊のお前には無理だろう」
「お父さんのためなら、ハチだって少しは我慢するわよ」
「しかし、こんな高価なものを……」
父親が心配していたのは、ハチのことより両親のために大金を使った娘のことのようだった。勤めているとはいえ、まだ25歳のOLが買うには高価すぎるものに違いなかった。
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