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「実はね。報告があるの。チケット代の半分は奥田君が出してくれたのよ」
奥田克弘は中学校の同級生で高校の頃から付き合っているのだが、そのことは両親には伝えていなかった。
「奥田って、同級生の奥田さん?」
「お母さん、知っているの?」
「奥田さんのお母さんがPTAのクラス委員だったからよ。本人のことは知らないわ」
「彼、旅行代理店務めで社員割引があるからって……」
「いかん。もらう理由がない」
原野が声を荒げた。
「ちゃんと聞いてよ。昨日、プロポーズされたの」
「エッ……」原野夫婦は同時に声を漏らす。
「それで、どうするの?」
純代が訊いた。原野は難しい顔で向日葵の口元を見つめている。
「今日、返事をするの。もちろん、イエスというつもりよ」
「そう。おめでとう」
純代の顔はほころび、それから少しだけ陰った。
「早すぎはしないか……」
原野は唸るように言った。向日葵が想定していた反応でもあった。
「向日葵は、もう25ですよ。私が結婚した歳と違わないじゃないですか。なにより、早く孫の顔が見たいわ」
純代は夫の腕を取り、諭すように言った。
原野は、息を詰まらせるような音をグッとさせてから口をひらく。
「向日葵。一つだけ伝えておきたいことがある。籍を入れることになれば分かることだから……。向日葵は、私たちの実の娘ではないのだ」
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