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「エッ……」向日葵が息を飲む番だった。母親に眼をやると、本当の話だというように、深刻な面持ちをしている。
「私たちは子供が出来なかった。子供のことは諦めようとした時、子供を育ててくれる夫婦を探している男がいると同僚から聞き、向日葵を養子にすると決めたのだ。向日葵が生後6カ月の時だ」
原野が口を閉じると、長い沈黙の時が流れた。チッ、チッ、チッと柱時計が時を刻む音がしばらくしていたが、やがてそれも耳に残らなくなった。
「私の……」
最初に口を開いたのは向日葵だった。
「私の名前を付けたのは……」
「実の父親だろう」
「本当の両親の名前は?」
「父親は高居仁、母親は友香だよ」
「どうして私は捨てられたの?」
「捨てられたのではない。高居さんは普通の会社に勤めていて経済力があったし、向日葵をすごく愛してもいた」
「なら、どうして……」
「育てられない事情があると言っていたよ」
「事情?」
「それは教えてもらえなかった。話しても信じてもらえないだろうと泣いていた」
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