プロローグ

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 『今夜、観測されるふたご座流星群は、深夜から明け方に掛けピークを迎えるとされ、天気、月の影響共に、近年まれにみる最高条件と言われています』  テレビの中で意気揚々と語っているのは、最近売れ出した若い女子アナウンサーだ。時間にしてもうすぐ午後七時。暗くなった寒空の元、短めのスカートで精一杯情報を提供している。  賢治は正面に設置してあるソファーに腰を掛けぼんやりと視聴していた。寒そうだな、であるとか頑張っているな、と労いの言葉を思い浮かべるも、ストーブの暖かさに、眠ってしまいそうだった。  『ここまでの好条件は、なんと日本では二十七年ぶりだそうです』  スタジオとのやり取りを何度か交わす。現場とは違い、おそらく暖かいであろうスタジオからの質問にも、嫌な顔一つせず、受け答えをしていく。二十七年前は生まれていないんです、と女子アナウンサーが言うと、スタジオは笑いに包まれた。  プロだなあ、と感心すると賢治はついに目を閉じた。二十七年前。当時のことを思い出す。忘れることのできない不思議な出来事だ。誰に話しても笑われるだけの気がして、仲間内で内緒にし、しまったままでいる思い出。     懐かしさに浸っていると、不意に呼ばれ、目を覚ました。聞きなれた、幼い声だ。  「パパ、寝てたの。ママがお風呂沸いたよって」  翔馬だ。八才となり、遊びたい盛りの翔馬は、父親であり、遊び相手でもある賢治が大好きだ。  「おう、そうか。一緒に入るか?」  翔馬は頷き、ゆっくり起き上がる賢治を見ている。ふと、テレビに視線を送ると、先ほどの報道番組は終わり、何やらクイズ番組が始まっていた。『賞金は百万円です』と司会者の男が言う。欲しいな、と思わずにはいられない金額に、賢治は百万円の使い道を想像した。  「パパ早く」  翔馬に急かされ、リビングを後にする。ストーブによって暖を取っていたリビングとは違い、廊下はかなり寒かった。両手をこすり、暖を取る。  翔馬は、脱衣所につくや否や、服を脱ぎ、浴室に飛び込んだ。シャワーの音が響く。その様子に、賢治は顔を綻ばせる。そして、寒さに震えながら、ゆっくりと服を脱ぎ、翔馬の後を追いかけた。
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