なまずの髭

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「おい、ちょっとテレビみてみろよ。」 パーキンソンを患い、なかなか出せない声で 春川さんが、あごを使ってみてみろと誘う。 「あー介護保険の番組ですね。」 食事介助の用意をしながら自分が答えた。 「こんなよー、いい制度が出来て いったいどんな素晴らしいヘルパーが 来てくれるのかと楽しみにしてたら、 来たのはまだ慣れてないおまえみたいなやつだ。」 鋭い眼光で、怒ってるのか春川さんが 睨むようにこちらを見ています。 はっとなって何も言えず、しばらく下を向いた後 自分は必死で答えました。 「・・・ 慣れなくて、迷惑かけてすいません・・・。」 言って気まずくなったのか、 春川さんもしばらくだんまりが続きました。 「なまずのひげってあるだろ?」 「はぁ・・・。」 「おまえも早く偉くなって、 なまずみたいに髭生やして 俺たちみたいなやつを安心させてくれよ。」 「・・・わかりました。 頑張ります・・・。」 次の季節を待たず、春川さんは パーキンソンが進行して、入院。 そして、亡くなられたそうです。 私が、ヘルパーの仕事を始めたすぐの頃の話です。 食事介助が、自分が食べるように ごはん→味噌汁→おかず→お茶のように その人の食べたい気持ちを察して介助する事。 ごはん→ごはん→ごはん。なんて誰も食べないだろうと、 教えてくれたのも春川さんでした。 いろんな大切な事を教わりました。 その後何年も介護の仕事を 続ける事が出来ているのも、 あなたに教わったいろんな事が 根本にあるからです。 そこから、見てますか春川さん。 少しでも、髭はえてきてますか。
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